『冨嶽三十六景 奇想のカラクリ』を観て来ました。
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/exhibition/katsushikahokusai全46点が揃い図録まで発売されるとのことで、
モノグサな私は当初、「混みそうだなぁ…」と尻込みしてました。
しかし、応為さんの代表作『吉原格子先之図』も展示されると追加発表。

不勉強で応為さんの名を知らなかった頃、吉原の資料本にこの画が載っていました。
美人画と違って人の顔が主題ではない、リアルな夜の吉原の陰影。
多くの人がそうであるように、私の心も動かされました。
実物を観たことがなかったので、これは絶対に行かねば! となりました。
行ったのは雨の平日だったのですが、わりと混んでました。
チケットと図録とグッズを買う人で、受付がくちゃくちゃする程度に。笑
なんと、展示の一発目が『吉原格子先之図』でびっくり!
まぁメインではありませんからね。
私の想像よりも実物は小さくて、本で見るより精緻な印象。
そして闇の色がはっきりと濃くて、明かりとのコントラストが際立っている。
後ろで見ていた外国の方も「Great shadow and lights…」と漏らしているのが聞こえました。笑
応為さんは画の対象にドライなところが、父親に似てるなぁと思います。
浮世絵の中で陰影を使う人ってほぼいないのでドラマチックに見えますが、
ドライだからこそ影を排しないというか。
着物の柄とかを詳細に丁寧に描くのも、女性ってだけではないと思うのです。
だってこんな画誰にも描けないよ! 笑
特別展示の作品ですが、見入っている人も多かったです。
やっぱりこの画の力はすごいですね。
そして冨嶽三十六景の全点展示へ。
有名どころだけではなく、流れを追えるのは有り難いですね。
皆さんもそのようで、『神奈川沖浪裏』の前に殆ど人が居ませんでした。
「北斎展」と銘打ってたら大抵いつも大混雑なのに…。
北斎のデッサン力がずば抜けてることは言わずもがなですが、
一枚絵にどれだけの躍動感を詰め込めるか、という「奇想」を、
確かに随所に感じることが出来ました。
『隅田川関屋の里』の馬が駆けていく様子なんて、まさに漫画的表現。

実際は三頭の馬が駆けているんですが、
遠近法を用いた一本道に並べることで、コマ送りみたいにも見えます。
北斎の中では平凡だと言われた構図の作品ですら、
水平線の湾曲や海に浮かぶ舟の配置にぴんと緊まった空気があって、
退屈ではありませんでした。
広重のような叙情ではなく、歌麿のようなロマンでもなく、
北斎の画は何処か乾いた緊張感があるように思います。
そして先日のヒストリアでも紹介されていた
『富嶽百景』の"海上の不二"も展示してあり、
個人的にとても嬉しかったです。

戯画的で可愛らしくてユニークな画ですよね。
余談ですが、この画像を探している時にカラー着色されたものがたくさん表示されて、
「これは白黒だからいいんじゃーーー」と若干叫びたくなりました。笑
神奈川沖浪裏に寄せなくてもいいのに。
北斎のドライで冷徹なほどのデッサン力に裏打ちされた様々な「奇想」、面白かったです。
一つの作品がテーマというのは、観ている方も気持ちが途切れず、とても良いですね。
記念に図録も欲しかったのですが、
あいにく懐が寂しくて買えなかったのが、ちょっとした心残りです。。
『吉原格子先之図』のポストカードだけ、買って帰りました。
馬の美術150選を観に行ってきました。
http://www.bajibunka.jrao.ne.jp/uma/event/event_20170804.html以前見てときめいた、『真夜中の馬』が展示されるとのこと。(記事「ピカソ版画展」参照)
検索してもポストカードどころか掲載されてる本も見付けられなかったので、
ここで見逃したらもうお目に掛かれないのでは? と思ったのです。
しかも北斎やロートレックやドガも展示されてるとか。
根岸に行くのは初。
地方出身者からすると「横浜」と言えば都会か新興住宅地しかないイメージなのですが、
根岸駅はかなり年季の入った小さい駅舎でちょっと予想外でした。
郊外とか地方感がある。
ホームから工場が幾つか見えたので、整備した土地が余ってる感じなのかな、と思ったのですが、
駅を出ると結構行き来のあるバスターミナルがあり、それも違う様子。
バスが駅前を出ると山というか高地が見え、「街の中に山があるなんて箱根みたいだなー」とか
呑気に思ってたのですが、バスはその高地をぐんぐん上り始めました。
えっここ上るの? 住宅街なの? 家の向かい崖だよ? 都会は土地が無いから?
というか高級そうなマンションがある…人気? そしてこの上に公園や博物館が??
と、かなり頭の中がこんがらがりました。
これは私が平地で育った所為です。街の中に高地や坂があるのが、肌感覚としてちょっと不思議なのです。
そして地方は土地が余っているので、所謂ハコモノは住宅街の外にあるイメージというのもあります。
競馬場も大きい公園も博物館も。
なんだか今までの私の街縮尺では測り切れない街でした。
坂を上り切って、博物館に着きました。
整備された公園の中の、小ぢんまりした建物。
しかし展示室は地下で、結構広かったです。
展示の序盤は厩図や合戦の屏風の他に、室町や江戸時代の鞍や鐙があったのですが、
とにかく装飾の細かさや華美さに驚き。
だって全面螺鈿とか金蒔絵とか銀細工とかですよ。
意匠や技術は素晴らしいですが、成金趣味が過ぎるというか。
サイトで触れられていなかった、広重の東海道五十三次の状態の良さにも驚きつつ、
展示の後半へ。
見どころとされる北斎の『馬尽』があり、摺物という少部数印刷の為か、
線の繊細さがよく分かりました。
そして次の区画は、馬に関する絵画がぎゅうぎゅうに展示してありました。
ロートレック以外にシャガールや東山魁夷もあるんですけど。
なんか絵よりぎゅうぎゅうさが気になってしまいました。笑
でも、お目当ての『真夜中の馬』はありません。
次の展示室なのか、と順路を進んで、廊下に出たところで呆然としました。
展示室ではなく、トイレの前に『真夜中の馬』が展示してあったのです。……嘘でしょ?
印刷物だから? 他の人の本の挿絵だから? 印象的な画風と違うから?
いや、何にしてもトイレの前って失礼過ぎる。
ショックで、せっかくの絵との再会に集中出来ませんでした。
悔しいので絵の前(トイレの前)を4回くらい往復して、ああこのページの装丁が可愛いと思ったんだ、
と反芻しましたけどね。
(こんな展示なのに写真撮影しちゃダメなのかよ、とか思ったことは秘密です)
見どころと銘打つなら、ちゃんとスペースを確保して欲しかったです。
あれじゃあ気付かずにスルーしてしまう人もいると思います。
次の展示室には馬の彫刻がいっぱいあって、
ドガのブロンズ像が群を抜いて躍動的で格好良かったです。
でも、「ここを詰めて『真夜中の馬』も展示してくれれば良かったのに…」と
気が散ってしまいました。
精神的にほうほうの体で物販コーナーを覗くと、『版画に表された馬』という本を発見。
見てみると『真夜中の馬』も載っていたので、買うことにしました。
本当は装丁を含めて好きなので、挿絵の部分だけクローズアップされるのはちょっと物足りないのですが、
そんなこと言ってたら二度と見られないかも知れないので。
まぁ私は『真夜中の馬』目当てだったのでこんな書き方になってしまいましたが、
こんな豪華な展示内容が入場料200円で観られるなんて、JRAの関連団体施設ならではだと思うので、
行かれてみてもいいんじゃないでしょうか。
あの、何処かの街に少しずつ似ているようで、何処の街にも似てない根岸の街を眺めて、
博物館に行ったら是非、トイレの前も忘れずに回ってください。笑
アップダウンのネタ研究会に行って来ました。
今回で2回目の開催。
芸人が芸人の前でネタをやって、試すライブだそう。
好きな芸人さんのネタ構築の現場や方法論なんて、見たすぎる!
そう思って1回目も行ったのですが、
試すというより感想を言い合う程度。
アンケートも無くそういう意味では期待外れでしたが、
取り敢えずアップダウンのネタは観たいので、今回も行きました。
今回のゲストはラフコンと全力さん。(すいませんこのコンビ名は抵抗があるので言いたくないです…)
私はトリオになってから初のラフコンだったのですが、
あのネタはイレギュラーだと思いたい…。
置いてけ堀系のネタがボケとして楽しいというのは何となく分かるのですが、
ちょっとトリオのネタとして成立してない部分もあって、
ツッコミのパワーバランス的にも不安でした。
別にデカい声で怒鳴れという訳ではなく。
全力さんは今回知ったコンビなのですが、
とっても面白かったです!
構成も良くて演技力もあって、安心して観られました。
やっぱり、漫才も演技力があった方がいいと思います。
前回の錦鯉といい、この「私が知らないベテラン枠」が一番面白い。
SMAすごいなぁ。
最後はホストのアップダウン。
7年前に作ったというコント。
不幸体質の女性と、その部屋に入った空き巣という設定。
まさかの阿部くんの女装。笑
(皆ブスと言ってましたが、女装のクオリティが低いと思います…)
少女漫画の紹介風に言うと、
"彼氏に振られちゃって絶望して、部屋で自殺しようとする女の子。
その時止めに入ったのは、ストッキングを被った泥棒で…?!"
みたいな導入です。
なんでふざけたかっていうと、私的に色々無理なネタだったからです。
出オチはいいとして、その後泥棒は女性が結婚資金として貯めた200万を
持って帰ろうとします。
女性が不幸話を言う度に、何万か返す泥棒。
6股されてた上に本命じゃなかった→じゃあ1人1万で5万ね、みたいな。
いや…200万てリアルに高くて、笑えないよ。
しかも完全に詐欺とか搾取の構図。
最初に女性のモノローグで結婚資金も貯めてたのに振られた、と言ってたので
伏線回収なのは分かるんですが、そんな些細な伏線なら無くてもいいような。
せめて家賃の10万とかにしてほしい。
私は不幸続きだ! →君が原因じゃないの? と展開しましたが、無理があります。
親の工場が潰れたのも友達が借金押し付けて来たのも6股の浮気相手だったのも、
全部この女性が「原因」ではない。
隙があったのを「原因」とするのって、宗教とか自己啓発セミナーみたいで怖い。
しかもそれを言ってるのが泥棒という。
後半はカップルの痴話喧嘩に掏り替る展開。
分かりやすかったので、面白いと思います。
でも、喧嘩がヒートアップして出て行こうとする女性を、
泥棒が後ろから抱き締めたのは、ざーっと引きました…。
だって、本当のカップルになった訳でもなく、まだ泥棒をやめてない状態の人が抱き締めて、
泥棒に戻ったら…?
ブラックオチが多いコンビですし、何か怖いものが過りました。
周りの女性のお客さんも静まり返ってましたが、理由は分かりません。
多分、喧嘩に見立てて「ごめん、泥棒になんか入った俺が悪かった」
とか謝ってから抱き締めたら、あそこまで静まり返らなかったと思います。
あと、女の子の設定なのに思いっきり胸に手を回して抱き締めてたのも不味いのでは。
いや、私はフェミなんで気になる部分多めなのかもですが。
キャラも私の好みではありませんでした。
やっぱり阿部くんは、戸惑ってるときが一番輝いてて面白いと思います。笑
というか、このコントではツッコミですらなく、ボケる為の「誘導」役でしたし。
竹森くんの「自分のこと棚に上げキャラ」は大好きなのですが、
泥棒でそれをやられたらただの居直り強盗ですよ(´Д`;)
あの泥棒は弱くもダメでもなく、女性に返すお金をちょろまかしたり
原因は自分だと思い込ませるような狡猾な奴だったので、
終始不安で怖かったです。
本人達的には、ストッキングを引っ張る件りがテレビ向きかもってことで今回試したようですが、
劇場でも全然大丈夫な展開だと思います。
私はもう観たくありませんが。苦笑
前回のネタはそこそこ面白い感じだったのですが、
今回は倫理的に無理なものだったので、ちょっとガッカリです。
自分の考えを整理する意味もあって書きました。
コンセプト的に試作段階のネタを3本見せられるライブなので、
観客としてはなんだかもにゃもにゃします。
やっぱりアンケート欲しいな!
先日、また一つ歳を取りました。
何もない年は、なるべく何処かに出掛けるようにしてます。
去年は、初めて幕張のよしもとの劇場に行って迷ったり、滑り込みで期日前投票にも行ったりと頑張りすぎて、
後に大風邪を引いてしまいましたが…。苦笑
今年は三井記念美術館の地獄絵ワンダーランドを観て来ました。
http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html誕生日に地獄絵を観るってどんだけシニカルなんだって感じですが、
普通に気になってた展示だったもので。
地獄のグロさより、その絵の文化背景に興味があります。
神話とかもそうですね。
三井美術館が初めてだったのですが、まぁとにかく内装が豪華絢爛ですね。
明治の迎賓館風といいますか。
例に漏れず、私も圧倒されました。
その内装と水木先生の地獄絵の不均衡さが、最初は気になって仕方なかったです。笑
水木先生の絵が資料(地蔵十王図とか)に割と忠実ということもあって、
展示の前半は同じモチーフの繰り返しという印象でしたが、
地獄という概念が文化に浸透し発展して行った江戸時代の黄表紙や素朴絵などは、
やはり興味深くて面白かったです。
幕末なんて浮世絵では残酷絵が流行ってたのに、
それまでグロさを押し出してた地獄絵の方がポップでコミカルな画風になってたっていうのは、
なんだか不思議です。
皆グロさに耐性が出来ちゃって、他のアプローチじゃないと目を引かなくなったんですかね。
地獄という源氏名の遊女がいて、地獄絵をモチーフにした打掛を着てたっていうのも
初めて知りました。カッコいい。
余談ですが、江戸時代の女性の打掛って結構文化背景が出て面白いですよね。
数年前観に行った着物の展示で、江戸時代後期の大店の商家のおかみさんが
写実的な鷹をモチーフにした打掛を着てたっていうのを見て、
江戸時代の初期は、鷹なんて威厳を示す為に武家の床の間の掛け軸に描かれてたものなのに、
この頃になると商家の女性のファッションパターンだったんだなーと
時代の推移が分かって面白かったです。
今でいうヒョウ柄みたいなものでしょうか。
比丘尼が女性の落ちる地獄を説いた絵は、やっぱり引っ掛かりました。
子供を産まなかった女性、再婚した女性などが地獄に落ちるという。
私は正しい仏教徒じゃないので、
なんでそれを罰せられなきゃならないんだと思ってしまいますね。笑
まあそれまでの地獄は男性用って感じだったので、
概念が発展した結果というのは知ってますが。
だって知らない超絶イケメンの為に刃の葉の木を上り下りする女性なんて、
あんまりいなさそうですもん。笑
他にもキリシタンと思しき女性が罰せられる側ではなく祈る側として登場していたり、
霊峰立山の下に地獄があるとされてたり…。
見ないと分からないことが沢山あって面白かったです。
しかし、キャプチャーが非常にざっくりしてたのが、ちょっと気になりました。
画材が書いてなかったり、「江戸時代」とされてたりとか。笑
私立の美術館はそういうものなんでしょうか。
とにかく、今までになく地獄に触れた誕生日でした。
昨日、文学フリマに参加してきました。
お立ち寄り頂いた方々、ありがとうございました。